「鯛焼きひとつ、鯛抜きで」

クリープハイプとPublic Relationsが好きな、webライターの雑記

眠れない夜に叩くキーボードが、楽器だったらよかったのに

ここ4日間、何があったわけでもないのに眠れない。

眠ろうとして、眠れなくて、どうにも目が冴えて。頭の奥がむずむずすると、あさのあつこ『No.6』を思い出す。紫苑の脳を蜂が食べ進めていくシーン。しゃりしゃりいうんだよね、確か。読んだのは15年前だと思うから、記憶違いだったかもしれんけど。そもそも、蜂で合ってる?

 

今夜は江國香織を読みながらゆっくりお風呂に浸かり、クリープハイプの曲をシャッフル再生しながらボエ〜と歌い、ご機嫌に自律神経が整った感じがする。むしろ整いすぎたのか、エンジンがから回っている感覚すらある。だからこうして、キーボードを叩く手でカロリーを消費している。夜に食べた海鮮丼(サーモン・マグロ・ネギトロ・誤差のようなホタテ)のカロリーは、何文字で使い果たせるのだろう。

 

ふとした時に、眠れぬ夜に叩く「キーボード」がパソコンではなく楽器であればよかったのにな、と思う。

楽器ができる人に憧れて25年。「憧れ」という感情が芽生えてから数えると22年。多分。せっかく親友から貰ったウクレレは、引っ越した先が楽器NGだったので、クローゼットでいい子にしてもらっている。

これからの人生で最も若いのは「今日」なんだから、何かを始めるならすぐにやれ、とは言うけれど、なかなかどうしてずいぶんと腰が重くなってしまった。

ほら、言い訳だけはどんどん上手くなる。仕事でそんなに言い訳してないのに。年を経るにつれて、人の言い訳を聞く回数が増えるから、上手くなるのかしら。大人って、嫌ね。

 

大人、いわゆる「社会人」になってから、昔よりも朝が怖くなくなった。

大学生の頃は「絶起王(ゼッキング)」などと名乗り、起きられないことをエンタメに昇華する努力をしていたが、大人になってから、服用している睡眠導入剤抗うつ剤のせいで生命保険の審査に手こずり、冗談にすることもアホらしくなった。

するとどうだろう、「己を偽る時間」の象徴とも言える朝が、敵ではなくなったのだ。まあ、味方ではないが。仕事しなきゃいけないし。月明かりの0.6倍くらいには朝日も気持ち良く感じる。

 

今になってわかったが、「周囲に心配かけないように!」なんて配慮をする必要、実はあまりないのかもしれない。基本的に世の中の人間は自分のことなんて見ていないし、然るべき時には今までの人生を念入りに調べあげてくれる(良いか悪いかは文脈によるだろう)。

周囲に見せたい自分を見せればいいし、その「見せたい自分」は8割くらいは本能に忠実でいい、んだと思う。

 

それにしても全く眠くないな。そりゃそうか。キーボード叩いて眠くなれたら世話ないわな。ブルーライトマシマシでお送りしてんのに。

こんな時には気分転換だ、と煙草の箱やら仕事道具やらが転がるデスクをさらに漁る。隅で居心地悪そうに佇む化粧箱から、適当なピアスを選んで耳に刺す。うーん、別に気分転換にはならんか。そりゃそうか。

じゃあ水分補給はどうだ。いつ淹れたかわからない、冷め切ったコーヒーを飲み干す。あら、カップの内側に茶色い水平線がくっきり。この竹製のカップは、安物のデスクには不釣り合いな高級感を醸し出しているし、事実上等な頂き物なのだが、残念なことに私の毒牙にかかってしまったので、きっと年が明けた頃には3coins感漂う生活雑貨へと変わり果てるだろう。

 

そうだ、かめきち。つい先日飼い始めたカブトニオイガメのかめきちを眺めていたら眠くなるに違いない。

デスクから水槽に目をやると、かめきちは浮島の上でぼんやりしていた。まるで飼い主の眠気を全て吸い取ったかのような顔つきである。いつもは「自分がウミガメだと思い込んでいるのでは?」と勘繰ってしまうほど水の中にばかりいるのに…まあ、いいか。幸せならOKです。

 

 

さて、困った。眠るための策が尽きてしまった。同時に、聴いているクリープハイプの「オレンジ」もちょうどサビが終わった。ここらが潮時か。

では伝家の宝刀、「PCを閉じてベッドに入る」という策を講じることにしましょう。

あ、この締め方、「手記はここで途切れている」って感じで、いいですね。

 

十一月の夜は空気が澄んで、安っぽいビニールでできた赤やピンクのかざぐるまが、夜風にかさかさ音をたてている。街灯だけがこうこうとあかるい。

夜の商店街も悪くないな

次郎くんとならんで歩きながら、そう思った。

(『綿菓子』江國香織