「鯛焼きひとつ、鯛抜きで」

クリープハイプとPublic Relationsが好きな、webライターの雑記

好きな天気の嘘

「好きな天気は?」と聞かれた時、「曇りかな〜」と答えるようにしている。多分、小学生の頃くらいから。「曇り」のちょうど良さが好きだ。

雨は鬱陶しい。服も濡れるし、傘をささないといけないし。着古したロンTの袖口みたいに手垢のつきまくった話だが、こんなにイノベーションが起きているというのに、なぜ人間は傘を超える雨をしのぐ手段を生み出せないのだろう。いや、雨合羽が失敗例というだけか。かくいう自分も傘のサブスクを契約している。全国の提携施設・駅にある傘を借りていけるやつ。「日本で雨の降る日数を鑑みた時に、ビニール傘を毎回買うよりお得!環境にもいいよね!」という触れ込みで契約したが、「本当に得なのか??」「毎回ビニール傘買わんやろ」という心の声を押し殺しながら、2年強になる。文章に落とし込んだ今もなお、首を傾げながらキーボードを叩いているし、気持ちいつもより指に力が入っている。

 

さて、晴れは押し付けがましい。照るなよ。太陽がもう少しおとなしければ、きっと今契約している傘のサブスクだって、今よりお得になるんだ。計算上。日傘として使えばいいんだよ、という野暮なことは言わないで欲しい。たとえそれなりに涼しくても、黒い服が好きな私は日差しですぐホカホカになってしまう。夏なんて特に地獄。殺す気かと。表現の改められた令和になってもなお、「熱中症」よりも「日射病」の方が、私にとってはずっとしっくりくる。晴れはイノベーションありました、日焼け止め。でも、雨と違って元々「避けるもの」ではなかったものを、避けるために生まれたわけで、それが日傘をすっ飛ばしたわけだ。技術者は一体何をしているんだ。

 

以上を踏まえ、曇りは行儀がいい。避けるものがない。家庭の医学か何かで「晴れていても紫外線を避けるために日傘をさしましょう!」とかやっていた気もするが、手ぶらを許される日をみすみす逃してたまるか。晴れの日だって、日焼け止めを塗る手間がかかる。手間なんてない方がいいに決まっている。フライパンひとつで片付く料理を常に模索している独身男性こと私が言っているのだから、間違いない。

 

……という嘘をついていた。よくもまあ、ここまで理論武装ができていたものだ。完全に嘘。好きなのは晴れです。冬の、晴れ。澄んだ空気が、煙草で汚れた私の肺をきれいにしてくれる気がするから。晴れが好き、って言いたくなかった。「陽キャ」っぽくて、ぶっちゃけダサいとか思っていたから。晴れが嫌いな人って、ぶっちゃけ少ないと考えていた(る)から。好きな天気ひとつでも、周囲から「こいつっぽいな〜」と思われるように振る舞っていた。ただ、周囲の印象は自分の言動によって形作られるわけで、完全にニワトリたまご。

 

冬が忘れ物をとりにきたような、肌寒さだけを感じさせる雨の日。これが晴れだったら、と悔いた自分に、そろそろ嘘をつかなくてもいっか、と思った。

凡人コンプレックスという名の大二病が抜けないまま、過剰な自意識とヒィヒィ付き合いながら、25歳の春を迎えた。大好きな冬が遠ざかり、大好きな冬が近づく。