「ソーシャルディスタンス」とPR会社
連日のコロナ報道。この1ヶ月、「ソーシャルディスタンス」を聞かない日はありませんね。今日だって緊急事態宣言の延長云々のニュースで聞きましたし、冗談抜きで1日9回くらい聞いているような気がします。まぁ、「コロナ」は1時間で9回くらい聞きますけども。
でも、私が不勉強だからでしょうか、「ソーシャルディスタンス」ってコロナウイルスの報道まで聞いたことなかったんですよね。
ソーシャルディスタンスとは、日本語では社会的距離を意味します。
新型コロナウイルスは、症状が出ていなくてもウイルスを保有しているいわゆる無症候の方もいます。無症候の場合、自分がコロナウイルスに感染していると考えずに人に接触をしてしまうということもあり、気が付いたら自分自身がクラスターとなってしまう可能性もあります。自分だけでなく相手への感染を防ぐために、ソーシャルディスタンスという考え方が必要であるとしています。
クリニックフォアグループが解説してくれていますが、定義を説明する過程で「コロナウイルス」が出てきます。やはり、少なくとも大衆サイドから言わせてもらうと、コロナウイルスが流行して初めて耳にした人が多そうです。
でも、登場して1ヶ月ちょっとの概念の割に、かなり浸透しています。そりゃ命に関わりますし、自粛なる行動変容を強いられているわけですから、当然といえば当然なのかもしれませんが。
ここで、調べたいことが出てきました。
関係構築のプロフェッショナルであるPR会社は、日本にとって新たな概念と言える「ソーシャルディスタンス」について、どのようなメッセージを発信しているのでしょうか。命に関わるトピックをどのように発信して、どのように人々と関係を構築しようと試みているのでしょうか。
全企業に共通した危機である一方、発信するメッセージはPR会社ごとに異なる、ってかなり面白くないですか。和食・フレンチ・イタリアンのコックに鯛を渡して「最高の料理を作って」と頼んだら煮付け・ポワレ・カルパッチョが出てくる、みたいな。全部美味しいけど、味は全部違うわけですよ。
これって、逆にいえば、食材と料理を見たら、その人が何料理のプロなのかわかるのではないでしょうか。言い換えれば、コロナウイルスという共通の食材(危機)と出された料理(メッセージ)を見ていけば、各PR会社がどのようなスタンスで調理(コミュニケーション)するプロフェッショナルなのか、ハッキリと見えてくるのではないでしょうか。
サニーサイドアップ
まず1社目は、サニーサイドアップです。実は、この記事を書こうと思ったのも、サニーサイドアップからのメルマガを見たからだったりします。
サニーサイドアップは、「たのしいさわぎで、世界を変える。」をコンセプトとする1985年に設立されたPR会社です。パンケーキで有名な「bills」を運営している会社と言った方が、若い人にとってはわかりやすいかもしれません。
※サニーサイドアップは、2020年1月1日に持株会社サニーサイドアップグループへと生まれ変わっています
サニーサイドアップは、以下のようなメッセージとイメージを併用しています。
PRという仕事は、いまこの世界が直面している課題を直接的に解決することは出来ません。
それでも、私たちが創るニュースやコンテンツを通して、たくさんの人に共感や気づきを与え、
人が行動を起こすことで、世の中の空気をほんの少し変えることは出来るはず。人の気持ちを動かすことで世の中に新しいムーブメントを創り出してきた私たちは、
たとえ人と人とが離れていても、“たのしいさわぎ”をおこせることを知っています。“コミュニケーション”や“情報”という目に見えないものを取り扱う企業の責務として、
サニーサイドアップグループのメンバー一人ひとりが考え、
いま出来ることを一つずつ行動に移していきます。今は離れることもたのしみながら、
それが、明日につながる行動だと信じて。Keep Distance with Fun!
なるほど。
「ソーシャルディスタンス=身を守るための義務」とされがちななか、「Keep Distance with Fun! 離れることを、たのしもう。」とメッセージを発信する。「たのしさ」を軸にしている企業だからこその、人の気持ちにフォーカスした、「個人」がメインターゲットのメッセージですね。
ともすれば「この苦しみを乗り越えた先には、たのしいことが待っている!」とメッセージを発信してしまいそうですが、サニーサイドアップは違いますね。発想を転換し、現状もたのしもう、と伝える。
実際、サニーサイドアップグループ・Gunosy・Grillの3社で発足した合同プロジェクトの第1弾として、グノシー内で全ての人を元気づけるポジティブなニュースを届ける「コロナアクション」というチャンネルを設置するそうで。グノシーは個人単位で利用するサービスですから、やはり個人を対象としたアプローチですね。
一人一人の心を動かすことで(個人の集合体である)社会を動かす、という考え方が見てとれます。
あと、何よりロゴがポップで可愛い。白身から黄身が外れた目玉焼き(5・7・5)。
こうも特色が出るんですね。次に行きましょう。
プラップジャパン
プラップジャパンは、「世の中のあらゆる関係性を良好にする。」をミッションに掲げる独立系総合PR会社です。
プラップジャパンは、「あたりまえを変える」アピールが盛んなPR業界で、あるときは従来の価値観を尊重し、あるときは旧い価値観を変える、と「もともと社会にある常識も大事にする」姿勢を明確に打ち出していることが特徴ですね。
相手を否定して自分の価値観に誘導することが本当に良好なコミュニケーションでしょうか。
相手の価値観も尊重し、お互いの合意できる点を見つける作業こそ、良好な関係性を構築するためには不可欠です。どのPR会社もきっとわかってはいると思うのですが、プラップはこれをHPの冒頭にブッ込んでくるあたり、信念の強さが見えて好きです。
あと、プラップジャパンのトップメッセージにある「たいせつなのは、目の前の常識をしっかりと受け入れた上で、そこに日々変わりゆく「あたらしい常識」を、すこしずつ積み重ねていくこと。「こんな考え方もありますよね」と各々の立場を認める努力を厭わない、誠実で寛容なアプローチではないでしょうか」という部分も、Public Relationsの本質をきっちり明文化していて好感触。素敵。
さぁ、ではソーシャルディスタンスについてはどのようなメッセージを出しているのでしょう。
Stay Home, Stay Connected.
距離を保とう、繋がりも保とう。
現在、新型コロナ感染症が世界的なパンデミックになっています。
この状況下で、コミュニケーションの仕事に関わる私たちが出来ることはなんでしょうか。ソーシャルディスタンスを保ちながら、なるべく経済も止めず、少しでもコミュニケーションを築くことで、さまざまな企業、働く人々、困っている方々や、社会全体の力になることが出来たら。
私たちプラップジャパンは、そんな想いで、このプロジェクトを立ち上げました。
The Connectedでは、社会に対するコミュニケーションアイデアや素敵な取り組みをご紹介していきます。
先ほどのサニーサイドアップとはうってかわって、マクロな視点からのメッセージです。ロゴデザインはスタイリッシュ。
ポイントは、「社会に対するコミュニケーションアイデアや素敵な取り組み」と謳いつつ、その後紹介されるのは企業向けのメッセージだといいう点。The Connectedという独自プロジェクトを立ち上げ、各企業の広報担当者を対象としたアンケート調査の結果を数値化して提示している(例:「広報活動に不都合が生じている 83%」「PRイベントの中止・延期 74%」「当面は危機管理広報に注力 68%」)ところからもわかるように、企業をメインターゲットとしたメッセージ。
しかし、これをただ「なんでもビジネスにつなげるなぁ」と解釈するのは早計であるように思えます。先ほどのサニーサイドアップのメッセージからもわかるように、メッセージにはその企業の考え方が込められている。
今回のメッセージでいえば、人の(中規模)集合体である企業を動かすことで、より大きな集合体である社会の変容につながる、との考えが透けて見えるのですが、いかがでしょう。
スタンスの整理
非常に興味深い結果ですね。
- サニーサイドアップ:社会=個人の集合体、人の心を「たのしさ」で動かすことで社会を変える
- プラップジャパン:社会=(個人の集合体である)企業の集合体、企業に寄り添ったコミュニケーションで社会を変える
両社ともにコミュニケーションのプロフェッショナルでありながら、社会への眼差しは異なります。PR会社が何社もある理由がわかる気がしますね。各企業が、似た社会の捉え方をしているPR会社と手を取り合って社会にアプローチするから、様々なPR会社が生き残る。勉強になりました。なんでPR会社ってこんなにあるんだろう、と疑問に思っていたことが、解消された気がします。
ちなみに、上で紹介しなかったPR会社も、ソーシャルディスタンスにこそ明確なメッセージを打ち出してはいませんが、コロナ禍を受けて様々な対外的施策を行なっていることに代わりはありません。
取り組みだけだと、姿勢まで見抜くことは難しいですが、「強みを何と認識しているか」は非常にわかりやすいですね。素人ながら、メッセージからのスタンス分析、少し賢くなれました。るんるん。